
チェコのゲーム開発スタジオ、Ministry of Broadcast Studiosによるゲーム「Ministry of Broadcast」の紹介。
一言で:Ministry of Broadcastとは
自由を勝ち取るために番組で優勝を狙う、2Dアドベンチャープラットフォーマー
概要
- ジャンル:2Dアドベンチャープラットフォーマー
- 開発者:Ministry of Broadcast Studios
- リリース日:2020年1月30日
- 価格:通常時1,520円
- プラットフォーム:Steam
- 日本語:有
- マルチプレイヤー:無
- コントローラー:使用可
- プレイ時間:6~7時間
物語性 | ★★★★★ |
ゲーム性 | ★★★★★ |
難易度 | ★★★★★★ |
コスパ | ★★★★☆ |
理不尽度 | ★★★☆☆ |
こんな人にお勧め
- プリンス・オブ・ペルシャのような操作性のゲームでも問題ない人
- 全体主義社会におけるディストピアな世界観が好きな人
- 多少の理不尽は問題ない人
ネタバレなし解説
ゲームについて、以下ストアページより引用。
亡命へと続くアクションを、心行くまでお楽しみください。ウォールショーへ、ようこそ。
このゲームは、ストア説明文にもあるように、「プリンス・オブ・ペルシャ」や、「Oddworld: Abe’s Exodus」に近い操作性である。といっても、日本人にはあまりなじみがないが、いうなれば「アニメーション枚数の多さ=リアルさを出すことで、わざと不自由な操作性にし、主人公はただの人間であることを強調したゲーム」といったあたり。そのため、こういったゲームを遊んだことがない人にとっては、操作性がクソという評価で終わってしまうかもしれないが、そこはそういったゲームなのでとしか言えない。そのため、プレイしてすぐダメだと思ったら返金申請したほうが良いかもしれない。
また、粗いドットながら、少しだけグロテスクな表現が含まれている。その点も注意。

ストーリーは、おおまかに「主人公が、壁の向こうの家族へと会うために、「ウォールショー」という番組で優勝を狙う」といったあたり。しかし、プレイし始めるとすぐに混乱することになるだろう。そこは、ゆっくりと進めつつ理解していってもらいたい。
もう少し具体的に言及すると、公式にも言われているように、このゲームは、ジョージ・オーウェルによる小説「1984」を参考にしている。そのため、おおまかなテーマは「全体主義社会によって統制がとられた、ディストピアな世界」である。それを知っておくと、少しばかり理解できるかもしれない。

操作について、単純に書けば、上下左右への移動、ジャンプ、ダッシュ、使用、とごく普通に感じるが、そこには「プリンス・オブ・ペルシャ」らしさが入ってくる。
主人公の動きは、よくあるアクションゲームの主人公に比べ緩慢。方向転換に1秒弱かかる、ジャンプも人並みにしか飛べない、角をつかんで登るのも遅い、物を押すのも時間がかかる、一撃でやられる、ある程度の高さから落下すると死ぬ、ととにかく貧弱。これは、日本ではあまりなじみのない操作性ではあるが、海外での1980年代のゲームにはままあった操作である。

ゲーム性について、基本、上記の操作という点を押さえれば、難易度高めなゲームといったあたり。一部、そういったゲームにありがちな、理不尽な初見殺しなどもあるが、やり直しがすぐにできるため、そこまで強いストレスは感じない。
しかし、それだけでは語れない要素がこのゲームにはある。具体的に語ると魅力が減ってしまうが、このゲームは一種の「リアリティショー」をテーマとしている。そのため、主人公が知っていることは、「優勝すれば壁の外へ行ける」というだけであるため、プレイヤーの混乱≒主人公が体験していることとも取れる。この混乱は、ストーリーを進めていけばある程度理解できるようになるし、理解していくにつれ、プレイヤーと主人公の違いが生まれ、そこにゲーム的面白さを見いだせるといったようなあたりである。
そのため、このゲームはおそらく賛否両論になることだろう。

このゲームは、意図的な操作性の悪さと、意図的なゲーム性により、意図的に難易度が高くなっている。そこは、1つの「アドベンチャープラットフォーマー」の表現の形である。そのため、プレイしていけばいくほど、面白さがわかってくるゲームであるといえる。
しかしながら、この操作性は受け入れられない人も多いだろうから、無理だと感じたらやめてしまうほうが良いかもしれない。
ネタバレありストーリー
※ここから先ネタバレあり、それでもいい方はスクロール
それではネタバレありで解説を書きます。
特に今回は、ストーリーをまとめるという形にした。プレイ中またはプレイ前は読まないでもらいたい。クリア後または、クリアをあきらめた、あるいははなからプレイする気がない人だけ読んでもらいたい。
・ゲームスタート前
この政府の初代指導者は、都市の周りに壁を築くことにより、全体主義を徹底させた。没後、2人の後継者が争い始めたが、一方の後継者が、別の都市に壁を作ることによって、この争いは終結した。と同時に、一方は放送電波を送信し、一方は放送電波を受信するようにすることで、この「ウォールショー」を成功に導いた。
・「ウォールショー」の内容
簡単に言うと「政府によるプロパガンダ」である。つまり、「政府を批判するような、全体主義社会における異端者がどういった目にあうのかを示し、対して政府に不満を持たないことのすばらしさを強調すると同時に、指導者のすばらしさをたたえる」といったあたりである。そして番組を成立させるために、(おそらく)反政府の感情を持つような人間を「一般人」として出し、政府に忠実な人間を「警備兵」として出す。そこに、適性があり、かつ将来政府へと忠誠を誓いそうな人間を、表向きは「1人の参加者」として出す。そして、その人物が見込み通りの人物であった場合はそのまま優勝である。
主人公は、「優勝すると壁の外にいる家族に会える」ということだけを信じて参加する。この主人公は、世間知らずな感じで、空気の読めない天然な人間であり、政府に対しても無知である。この点がおそらく政府のお眼鏡にかなったのだろう、無事出場することができる。
・ゲーム中
番組の構成は、何日か練習のようなものがあった後、本番である。といっても、練習もぶっつけ本番のような形で、ちゃんと放送されている。練習で、主人公は、生き残るために非人道的な選択を迫られる。例えば人を突き落とすことで自分が助かるといったように。練習の時は実際に人は死なないが、そのような自己中心的な行動をした主人公を、周りの人間はけなし始める。
そういった日々を繰り返し、ついに本番。本番でもいつものように、自分が助かる行動をしていく。そこで実際人が死んでしまうのだが、ほとんど何も感じないまま、「一般人」を皆殺しにする。
最後、主人公は、同室で友と呼んでいた「ジョー」という人物と山登りレースをさせられる。本来、このレースには対戦相手がおらず、優勝することで、政府側の権力を誇示するだけのものである。おそらく今回は、主人公が一般人の一人に対し特別な感情を抱いてしまったことを危惧した政府が、急遽用意したのだろう。優勝を狙う主人公は、「ジョー」を殺害。無事頂上へと到着である。
・エンディング
エンディングには分岐がある。それぞれ書くと、
- 優勝した主人公は、指導者と会う。提案を受け入れ、ウォールショーのスタッフとして、政府に忠誠を尽くす。
- 優勝した主人公は、指導者と会う。提案を拒否した結果、衛兵に銃殺される。
- 優勝した主人公は、近くにあった洞窟から壁の外へ脱出しようとする。しかし、壁の外へはたどり着けず凍死する。
どれも後味のあまりよろしくない終わり方だが、小説「1984」も同様に、救われない終わり方をする。しかし、これがこのゲームらしいと言えばらしい点であり、物語に大きな深みを出している。
(2020年4月22日追記)
上記で示した3つ以外に、靴をすべて集めると、4つ目のエンディングにたどり着けるようになる。その内容は、「(いかにもな)出口から無事壁の外へと脱出する」というものである。
ただし、これは決してハッピーエンドではない。確かに、脱出後は家族とも会うことができるだろう。しかし、それもつかの間、国家にはもちろんマークされるだろうし、家族全員が危険な目にあうことだろう。
なお、この出口には「EXIT」と書いてある。普通、こんなところには書いてないだろうし、これはいわゆる、「靴を全部集めたご褒美に脱出させてあげる」という開発の意思であろう。そのため、このエンディングは、いわゆる正史に含まれない番外編的な扱いではないかと思う。
(コメント欄でのご指摘ありがとうございました)(追記ここまで)
・カラスについて
カラスは、3.のエンディングに到達すると、「自分の自由意志」ということがわかる。そしてジョーが死んだ(と思わされる)シーン以降、基本的にカラスが登場しないことから、ジョーが死んだあと、自分の自由意志はなくなり、惰性で生きるだけになってしまったのだろう。死んでしまったときにもカラスが出てくるのは、「死ねば自由になれる」という、皮肉的な意味合いが込められているのだろう。
ニンゲンさんが凍死せず最後まで歩き続けるエンドもあるよ、探してみて。