特別記事:Super 3-D Noah’s ArkとWolfenstein 3D

本日は、いつもの更新とは異なるが、昨日記事にした、「Super 3-D Noah’s Ark」について、このゲームの背景と、なぜ話題になったのかについて解説したいと思う。
ついでで、操作やシステムについても触れていきたい。

Wolfensteinの概要

まず、このゲームの背景として語るには、元となった作品である「Wolfenstein 3D」から語らないといけないだろう。

Wolfenstein 3Dは、id Softwareによって開発され、1992年にMS-DOS用ソフトとして発売された。MS-DOSとid Softwareの歴史については各自検索してもらいたい。
一応、今作はWolfensteinシリーズ3作目ではあるが、前作までとは開発もゲーム性も違うので省略。
このゲームが発売された当時、FPSというジャンルは存在しなかったといっても良い。それに含まれるようなゲームも過去に出てはいるが、どれもが2Dで表現されていた。そのため、(疑似的ではあるが)3DFPSであるこのゲームが発売された時、かなり話題になったものである。

wolfen
今遊んでみても案外楽しい。その良さが原点のゲームにある。

このゲームの何がすごかったのか、それはシステムとストーリー性、ゲーム性の良さにある。
基本の操作は、前後左右への移動と左右へ視点を動かす、そして銃を撃つ。これ自体は大したものではないのだが、銃を撃った際、ちゃんと弾が拡散し、当たり所によってダメージが変わるし、相手の攻撃にもそれが適用されているしがすごかった。
そしてこのスピード感。難易度を下げれば無双プレイができるし、上げればやりこみを楽しめる。
その他、昔ながらのゲームにありがちなスコアシステムに残機システム。そして特徴的な主人公の顔。コミカルに変化するので見てて楽しい。

少し注意しておきたいのは、現在はマウスとキーボードが主流だが、当時はキーボードだけで操作するのが基本である。そのため、今でいう視点移動の感度はかなり低かった。なお、マウスを繋げても遊べたが、その感度の低さがゆえに使う意味はほとんどなかった。

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背後に見える鉤十字。他にもヒトラーの肖像画がある。ドイツ版は修正済み。

ストーリーは、「主人公であるアメリカ軍人B.J.ブラスコヴィッチが、ナチのウルフェンシュタイン城から脱出する」というものである。当時はベルリンの壁崩壊によって東西冷戦が終結したため、それまで扱いの難しかった戦争をテーマとしたゲームも出始め、代表的な悪役としてナチが挙げられるのは自然の流れだった。それを、ここまで過激に表現したゲームは他にないといっても良い。その過激さがゆえに、ドイツでは表現規制されたほど。

そしてゲーム性。目的地などは表示されないため、自力で探索する必要もあるが、その探索に刺激を加える要素としてあるのが「シークレット」である。ただ単にマップを巡るだけなら、それはただの迷路である。しかし、怪しい壁などを調べると、壁が動き、その背後には大量のアイテムが、という喜びを加えることで、自然とプレイヤーに探索を促す。
また、その探索も、主人公が素早く動けるため苦ではない。マップもあったことから、行ってない場所を探すのも簡単。

このように、このゲームは現在のFPSの基礎を築いたといっても良い。このゲームの後、同社から出た「Doom」によってよりFPS業界は過熱することになるが、それはまた別のお話。

Super 3-D Noah’s Arkの歴史

このゲームは、何も初めからこんなものを作ろうと思って作られたものではない。このゲームについて知るには、歴史を紐解かねばならない。
なお、以下の内容は英語版Wikipediaに記述してある内容を翻訳、そのうえで自己解釈したものである。そのため、間違い等があれば指摘していただきたい。

開発前の構想

もともとこのゲームは、1987年にイギリスで公開された映画「ヘル・レイザー」(原題:Hellraiser)のゲームとして作ろうとしたものである。なぜその映画を選んだのかというと、Wisdom Tree社の創設者、Dan Lawton氏がこの映画がとても好きだったからである。

そのため、Wisdom Tree社はヘル・レイザーのゲームの制作権を50,000ドルで入手した。そして、この映画のテーマとあっているということで、id Software社からWolfenstein 3Dのエンジンの使用許可を取得。すぐに、NES(日本でいうファミコン)向けに作り始めた。なぜSNES(日本でいうスーファミ)で作らなかったのか、それは、Wisdom Tree社が、NESのシステムRAMを向上できる特別なカードリッジを使用したゲームを出したかったからである。

開発開始~頓挫

しかしながら、突如として計画は頓挫する。そこにはいくつか理由がある。

一つは、NESでは色の数が足りなかったからである。色の数を強化するようなカードリッジも考えたが、それではあまりにもコストが高くなってしまう。

一つは、最初のプロトタイプができた時、DoomがSNESですでに発売されてしまっていたことである。そんな中、今更Wolfenstein 3Dのエンジンを使用したゲームをNESで出しても売れないのは自明であった。

一つは、Wisdom Tree社が作っているゲームのテーマと、ヘル・レイザーのテーマが合わないことである。Wisdom Tree社は、それまで家族向けのゲームを出してきた。そんな中、こんなホラーのゲームを出しては評判は落ちるだろうと考えた。

上記の理由に加え、ヘル・レイザーのゲームの制作権の期限が切れたことで、方向転換し、SNES向けに開発しようということになった。

大きな変更~リリース

それでは何をテーマにするか。家族向けならば聖書があるじゃないか。というわけで、ゲームのテーマは「ノアの方舟」に変更された。

しかし、SNESでリリースするには任天堂から認可を受けなければなかった。しかし、何らかの理由(おそらく開発費の関係?)により、認可を受けずにこのゲームを出すことに決定したのだ。
SNESでは、正式なゲームしか遊べないように、コピープロテクトが搭載されていた。当時、海賊版ゲーム等、非認可のゲームを出すときには「Game Genie」といったような、カードリッジのスロットにさす機械があった。これを活用し遊べるようにした。

もちろん非認可だから、店頭に堂々と出せない。そこで、クリスチャン向けの本等があるコーナーにひっそりと置かれたのだった。おかげで、(正式な数は不明だが)一定数売れたようだ。

再リリース~Steamへリリース

2014年1月、このゲームは再びSNESでリリースされる。しかし、今回は購入したい人だけに送る形式をとった(AVGNのエピソードで話題になったからだろうか、詳しくはわからないが)。
その後、Piko Interactiveのウェブサイト上でデジタル版が購入可能となった。

そして、itch.ioにおいて、「20周年記念版」として販売、同時にアップデートも配信。その後Steamへリリースといったあたりである。

Super 3-D Noah’s Arkのシステム

今作は、Steam版Wolfenstein 3Dや、ZDoomというものと同じエンジンを使っている。そのため、操作は基本それらと同様であるが、一応書いておく(マウス+キーボード)。

  • WASDで前後移動
  • Shiftキーでダッシュ
  • スペースキーでアクション
  • マウス移動で視点操作、左クリックで攻撃
  • 1~6キーで武器の切り替え
  • TABキーでマップ表示

他にもショートカット的なキーもあるが、大まかにこのような感じ。このゲームならではの操作はない。

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基本の画面。装備しているのは基本的なスリンガー。

武器…というか、スリンガーは5種類。また、素手による攻撃(というか餌やり?)が1種類である。それぞれ割り当てられているキーとともに書くと、

  1. 素手で餌をやる。最弱。
  2. 基本のスリンガー。セミオートなので少ない弾数でも立ち回りやすいが、強い動物は眠らせづらい。
  3. 連射できるスリンガー。レートが高くなり、強い動物も簡単に眠らせられる。ただし、対複数は苦手。
  4. 連射+拡散するスリンガー。更にレートが高くなるが、一度に2発撃つため、使いすぎると弾がすぐなくなる。対複数で有利に立てる。
  5. タマゴ?を射出するスリンガー。2点バースト。どちらもあてれば、強い動物も素早く眠る。若干着弾地点の周囲に判定あり。
  6. 果物?を射出するスリンガー。レートは低いが、弾が大半の動物を貫通する。最強。

なお、2~4は共通の弾を使用する。また、2~4は即着弾だが、5と6は発射物である。そのため、5と6は障害物に当たらないように、また先読みして撃たなければならない。

まとめ

このように、一筋縄ではいかない「Wolfenstein 3D」と「Super 3-D Noah’s Ark」の関係性と歴史。ただ、このゲームはちゃんと、Wolfenstein 3Dのエンジンを使用し、許可も取っているため、ゲーム自体は面白い。しかし、わざわざこのゲームを買うんだったら、Wolfenstein 3Dか、DoomにWAD(MODみたいなもの)を入れて遊んだほうが良いだろう。

なお、管理人はこのゲームを最高難易度Hardでクリアしたが、Wolfenstein 3D同様、なかなか歯ごたえのある難易度である。そのため、見た目で余裕と思って最高難易度でプレイすると痛い目を見るので注意。
また、全実績解除は、攻略情報が少ないこのゲームにおいてはなかなか難しい。昔の、インターネットが一般家庭に普及していなかった時代を思い起こしつつ、思い切って時間をかけてみても面白いかもしれない。