Twelve Minutes 考察

前書き

当然ではあるが、クリアしたことを前提に書いているので、未プレイ、またはすべてのエンディングを見ていないとネタバレになる。要注意。
また、一個人による考察であるため、間違いや思い違いなどがあるかもしれない。ご了承いただければと思う。

普通にクリアしただけでは後味が悪いような、意味不明な感じとなる本作だが、すべてのエンディング(クレジットが流れるもの)を見たうえで考察すると、全体像が見えてくるようになっており、なかなかに味わい深いものとなっている。

本編

以下、メインとなる部屋を「10分の世界」、父と2人の部屋を「2分の世界」とする。また、翻訳間違いによって本編では「妹」となっているが、ここでは「姉」として書く。

エンディングはいくつかあり、そのうち真エンドと言えるのは「続き」である。それは、それまでの経過がリセットされるという意味でも当てはまる。だが、最も重要になるエンディングは「心を込めて」である。
このエンディングでは、ほぼ明確に「10分の世界」は妄想であることがわかる。そしてそれを補強する要素として、「父」の存在がある。
父の声と警察の声が一緒であることは、おそらくほとんどの人がわかるだろう。そして、(具体的な条件は不明だが)とある条件を満たすと父の見た目が警察と同じになる。つまり、「2分の世界の父=10分の世界の警察」である。これは、実はホームページにあるクレジットを見るとわかるようになっており、どこにも「警察(Cop)」とは書かれていない。加えて、かっこ書きで書いてあるが、in order of appearance=登場順で書かれている。妻より後で、バンブルビーより前に登場する人物(父)は、警察以外にありえない。

また、「2分の世界」にはミスリーディングを誘う要素がある。それは一度目の訪問で目撃する「主人公が父を射殺した」という部分。特に初見時には、ほぼ確実に「8年前の世界だ」とプレイヤーに刷り込ませるようになっているが、もちろんこれは実際に起こっていない。あくまで真エンドだけが実際に起こったことである。では、この真エンドはどういう状況なのか。

父の言葉を聞けばわかるように、この時点で姉(妻)は妊娠している。父にとって娘は非常に大事な存在であり、このことは許しがたいことである。姉(妻)が妊娠したことは、主人公にとっても非常にショックな出来事であり、そのことによって父に、最悪の場合殺されるのではないかと思ってしまう。そしてその影響で、おそらく主人公は精神に異常をきたし、どうあがいても幸せになれない妄想ばかりするようになったのだろう。
だが、父は完全に怒っているわけではなかった。もちろん多少は怒りつつも、それでも時間は戻せない。そこで父は、まずは主人公を落ち着かせるべく、「催眠療法」を試みる。花やつぼみのくだりは、まさに催眠である。そして物語は再び冒頭に戻る。
初プレイ時に違和感を覚えるであろう、「ニューゲーム」がなく「続行」であることは、この物語全体がループし続けているということを表している。つまり、真エンドと銘打ったものの、実際のところはエンディングがないゲームである。

 

ここからは主観的要素も多分に含まれる考察となる。人によって「ここはこうじゃないか」と思うかもしれないが、適当に読み流してもらえればと思う。

「10分の世界」の要素について。ここには、主人公の様々な感情が反映されている。
「10分の世界」の時系列に沿っていくと、まず最初に出るのが「父とベビーシッターの不倫」である。この際、生まれた主人公は「モンスター」と呼ばれているが、現実でもそう呼ばれていたかは定かではない。少なくとも、「2分の世界」の様子を見るに、父は主人公をモンスターと呼んではいなさそうである。
その後、主人公と姉は遠くなったが、とあるきっかけで出会い、付き合う。そして8年前の12月24日、姉が父を撃つ。ここではもちろん父は死んでいない。そして12月31日、主人公が父を射殺する。ここではいろいろと矛盾が生じるが、主人公の妄想であるが故、そこまで気にすることではないだろう。
この「父の射殺」は、現実世界ともリンクする。「もしここでああいう事故が起こったら」という妄想をしているのだろう。

ゲーム本編でもある現在。自身が異母弟であることを知らずに姉と結婚し、また父を射殺したことを覚えていない。ここは、「自分のいやなものを遠ざけて、ただ幸せな妄想を楽しみたい」ということの表れであろう。
妊娠したことや、母の名前が出てくるところは、現実世界とリンクする。現実世界では、妊娠したことが絶望的な要素だったのに対し、妄想ではそれを幸せなことに変換している。
そして唐突な警察の登場。この「幸せな家庭をぶち壊す」要素に父を当てはめたということは、父に対する恐怖と同時に、「父さえいなければ」という思いもあるのだろう。
警察は夫婦2人ともを射殺(場合によっては主人公の気絶で終わるが、その後間違いなく殺されるだろう)。この部分に、「現実でもこうなるのではないか」という思いがあるだろう。
そしてループをする。この10分間に基本的にこの部屋だけにしかいられないというのは、自分自身や、姉が妊娠してしまった事実、そして父と向き合うためであろう。向き合わない「逃げ」の場合ではダメということである。

もう少し具体的な要素について。
懐中時計について。父のものであるということは言及されるが、それだとつじつまが合わない。なぜなら、「孤独」エンド後にも同じ場所に懐中時計があるからだ。
「孤独」エンド後において懐中時計が手に入ったとは考えにくい。普通、姉に渡されるはずだからだ。そのため、この懐中時計は主人公自身を表していると考えるのが妥当だろう。
逆回転する針は、そのままの意味でとらえれば「時間を戻す」ことであり、妄想の中でも8年前に戻る要素となっている。だが実際のところ、「時間は戻せない」ことは父からも話される。そのため、これは「現実と向き合う準備が(多少なりとも)できた」という意味合いがあるのであろう。
分針が動かなくなった懐中時計について。「孤独」エンドのことを妄想した主人公は、その先のことももちろん考える。しかし、別れた場合のことを妄想すると、もはや自分の生きている意味を考えられなくなる。そして、空虚になった心が部屋の様相に反映され、唯一残されたものは自分だけ(=壊れた懐中時計)になる。
また、この懐中時計は「2分の世界」での壁掛け時計と同じデザインである。おそらく、現実で主人公が見ているものがイメージとして出現しているのだろう。
しかし、わからない要素もいくつかある。まず、この懐中時計は時針がない。そして、「孤独」エンド後、分針は動かないが秒針は動く。「2つの針は主人公と妻を表しているのではないか」とも考えたが、つじつまが合わない。ここは保留。

バンブルビーについて。警察の娘であり、がんを患っている。そして、警察は非常に娘のことを大事に思っており、娘のためなら人を殺すほど。これはそのまま、現実での父と娘を表しているのだろう。
実績にも関係する絵画は、真実に近づくごとに変わっていく。木が描いてある絵画と、男女が描かれている絵画は、だんだんと悲しい感じになっていく。これは、現実と向き合うつらさと連動しているのだろう。そして卵の絵画は、最後にはウロボロスが生まれる。これはそのまま読み取ればループしていることの象徴ではあるのだが、それ以外にも多様な意味が存在するため、一概には言い切れない。だが、興味深いものとして、「ユングが提唱した人間精神の元型を象徴するもの」という意味がある。詳細は個々人で調べてもらえればと思う。
地味に個人名がほとんど出てこないのも興味深い。上述した「バンブルビー」は当然愛称だし、明確に出たのはベビーシッターの「ダリア」だけ。これが何を意味するか…というのはちょっとわからないが。

終わりに

まだまだ細かい部分も考察できるのだが、大まかには以上である。正直、1周プレイしただけではほとんど面白さがわからなかったが、こうしてみるとなかなか凝っている。だが、演出上仕方ないとはいえ、一部エンディングや実績が難しすぎ、またリプレイも面倒なので、本当の面白さに気づく前に「エンディングまで行ったからやめよう」という人は多いのではないのだろうか。
実は、すべての実績は1周で達成できるようになっている。だが、当然攻略などを見ないとわからないし、特に「園芸人」実績は攻略を見ずに達成できたらすごいの一言。